ベトナムのキャッシュレス決済革新：農村部から都市部へ拡がるデジタル金融

ベトナムにおけるキャッシュレス決済の波は、地方の隅々にまで及び始めている。ベトナム国家銀行（SBV）が12月28日に発表した声明は、国内の遠隔地や農村部でのデジタル決済利用が飛躍的に増加していることを示唆している。特に島嶼部や山岳地帯の住民による銀行口座開設が加速しており、消費者の金融行動が急速に変わりつつある。

デジタルバンキング基盤の急速な整備

SBVは2015年以来、デジタルバンキングサービスの全国展開に向けた戦略的なイニシアティブを推し進めてきた。このキャッシュレス化推進は、単なる利便性の向上にとどまらず、国家の金融インクルージョン戦略の核となっている。アグリバンクの顧客サービス部門による分析では、地方部の口座開設ペースが従来の予想を大幅に上回っているとされている。

現在、モバイルマネー口座は234万件に達し、そのうち162万件が地方に集中している。14,500社を超えるベンダーがモバイル決済に対応済みで、月間の処理取引件数は1,500万件を突破している。これらの数字は、ベトナムのキャッシュレス社会への転換がすでに実行段階に入ったことを証明している。

金融機関による協業体制の構築

デジタルバンキングの急速な発展を支える原動力として、大手金融機関の戦略的な連携がある。11月には、グローバルなデジタルバンキングプラットフォーム企業がベトナムのSacombankと提携を発表。1,500万人超の顧客基盤に対して、シームレスな決済エコシステムが構築されることになった。同CEOは、この協業を「必然的な転換点」と位置づけており、電子商取引やソーシャルネットワークを含む多層的なキャッシュレス決済環境の実現を目指している。

同様に、HDバンクとユニリーバ・ベトナムも7月に連携を開始。流通・小売業者へのデジタル金融サービス提供により、消費者がスマートフォンから即座にキャッシュレス決済を実行できるインフラが整備されつつある。

地方行政による市場創設と国民への啓発

ベトナムのキャッシュレス戦略は上からの制度設計だけでなく、地方自治体が主体となったデジタル市場の創設という新しい段階へ移行している。SBVは地方の有力商品を対象としたデジタル市場プラットフォームの構築を促す施策を展開。これにより、現金取引から電子決済への転換がより自然かつ実践的に進行する環境が整いつつある。

暗号通貨採用への前向きな舵取り

さらに注目すべきは、ベトナムが従来型のキャッシュレス決済にとどまらず、暗号通貨技術への関心を高めていることだ。2021年7月、ファム・ミン・チン首相は仮想通貨の本格導入に向けた指示を中央銀行に出し、2021年から2023年にかけての試験運用プログラムの開始を命じた。この段階的なアプローチにより、政府は導入による国益と課題の両面を十分に検討する時間を確保できる。

Visaの2022年レポートによれば、ベトナムは東南アジアで最も仮想通貨採用率が高い国の一つであり、国民の約3分の2が暗号資産に接触したことがある。インドネシア、フィリピン、タイなども同様のトレンドを示しており、新型コロナウイルスのパンデミック以降、東南アジア全域でデジタル決済への転換が加速している。

ベトナムのキャッシュレス決済の推進は、単なる技術的な進化ではなく、国全体の金融民主化と経済デジタル化を実現する戦略的な取り組みとなっているのだ。