インクリメンタムが発表した「In Gold We Trust」2025年レポートは、今後20年の金価格展望に関する極めて重要な示唆を提供しています。単なる短期的な相場分析ではなく、2026年から2046年にかけての長期的な金価格グラフを描き出すこのシナリオは、世界的な金融秩序の再編という大きなうねりの中で、金がいかなる役割を果たすのかを明示しています。現在、金市場は単なる商品相場としての位置付けから脱却し、グローバル経済の不安定性に対する最後の砦として認識され始めています。20年後の金価格がどのような水準に到達するのかは、投資家のポートフォリオ構築にとって極めて重要な判断基準となるでしょう。## 周縁から中核へ:金市場の歴史的転換点かつて金は、利回りの低さと時代遅れの安全資産として軽視されてきました。しかし、金価格の20年チャートを見れば、この認識がいかに矛盾していたかが明白です。ダウ理論によれば、強気相場は3つの段階で構成されます。蓄積段階、一般投資家の参入段階、そして熱狂段階です。現在、金市場は第2段階である「一般投資家の参入段階」のただ中にあります。この段階の特徴として、メディア報道は一層楽観的になり、投機的な関心と取引量が増加し、新しい金融商品が相次いで発売されています。過去5年間で、金価格は92%上昇しましたが、これは単なる相場上昇ではなく、構造的な価値再評価を示しています。同期間、米ドルの実質購買力は50%近く低下したのに対し、金の価値は相対的に大幅に上昇したのです。2020年に発表された「黄金の10年」予測は、現在の金価格動向がインフレシナリオの軌道に沿っていることを示唆しています。そして20年後の2046年に向けて、この上昇トレンドはさらに加速する可能性があります。金が昨年米ドル建てで史上最高値を43回更新し、今年に入っても頻繁に過去最高値を塗り替えているという事実は、金市場における「パラダイムシフト」の到来を象徴しています。## 2030年末8,900ドルへの道筋と、その先の20年ビジョンインクリメンタムのシナリオは、基本シナリオと高インフレシナリオの2つを提示しています。基本シナリオでは2030年末までに金価格が4,800ドル程度に達することが予想されていますが、高インフレシナリオでは8,900ドルに到達する可能性が示唆されています。この二つのシナリオの存在は、金価格の20年展望においていかなる経済環境下でも上昇余地があることを暗示しています。現在、金価格は2025年末のベースケースにおける中期目標である2,942ドルを既に上回っており、インフレ率の推移次第では、2030年代後半から2046年にかけて、金価格は2つのシナリオの中間値、あるいはそれ以上の水準に到達する公算が高いと考えられます。短期的には、2025年から2027年にかけて金価格は若干の調整局面を経験する可能性があります。歴史的に見て、強気相場では20%から40%の調整が一般的であり、2,800ドル水準への一時的な下落も想定されるべきでしょう。しかし、この調整は長期的な上昇トレンドを脅かすものではなく、むしろポートフォリオの安定化プロセスの一環として位置付けられるべきです。## 中央銀行による金購入:20年の加速トレンド中央銀行の金準備需要は、過去20年で際立った特徴を示しています。2009年以降、世界の中央銀行は金市場において純買い越しを継続しており、この傾向は2022年2月のロシア外貨準備凍結以降、大幅に加速しています。ここ3年間、中央銀行による金購入は毎年1,000トンを超えており、まさに「ハットトリック」を達成した状況です。ワールド・ゴールド・カウンシルの調査によれば、2025年2月時点で世界の金準備高は3万6,252トンに達しており、外貨準備に占める金の割合は22%と、1997年以来の最高水準となっています。特に注目すべきは、アジアの中央銀行がこれら金購入の大部分を担っている点です。2024年の購入国別ランキングではポーランドが最大となりましたが、中国の長期的な金購入戦略は極めて戦略的です。ゴールドマン・サックスの試算によれば、中国は今後、月間約40トンの割合で金を購入し続けると予想されており、これは年間約500トン、つまり過去3年間の中央銀行総需要のほぼ半分に相当します。この中央銀行による継続的な金購入トレンドは、少なくとも今後10年から20年は持続すると考えられます。各国が国内に金を保管することで、国家的な金融資産の没収リスクを回避しようという動きは、より一層強まるでしょう。## インフレとマネーサプライの構造的圧力金価格の長期的な上昇を理解するうえで、マネーサプライの膨張は不可欠な要素です。1900年以降、米国の人口は7,600万人から3億4,200万人へと4.5倍に増加しましたが、マネーサプライM2は同期間に90億ドルから21兆ドルへと2,333倍に膨張しました。一人当たりでは実に500倍以上の増加となっています。この現象をレポートは「ステロイドを投与されたアスリートの筋肉増強」に例えています。見た目は素晴らしいかもしれませんが、構造的には著しく脆弱なのです。G20諸国ではマネーサプライが年平均7.4%増加しており、3年間のマイナス成長を経て、再び増加傾向に転じています。今後20年を見通すと、各国政府と中央銀行は引き続きインフレ偏向の政策スタンスを維持する公算が高いです。景気後退と資本市場の暴落はデフレをもたらす一時的な効果がありますが、これに対する政府の対応は必然的にインフレ的性格を帯びます。イールドカーブ・コントロール、量的緩和、金融抑圧、追加財政刺激、さらにはMMTなどの非伝統的手段の活用は、今後20年で一層加速するでしょう。このマネーサプライの膨張は、金価格を構造的に押し上げる最大の要因として機能し続けるはずです。## 新しい60/40ポートフォリオ:20年後を見据えた資産配分従来の株式60%、債券40%という標準的なポートフォリオ構成は、現在の市場環境では最適ではなくなっています。インクリメンタムが提案する新しい60/40ポートフォリオは、以下のような資産配分を示唆しています。- 株式:45%- 債券:15%- 安全資産としての金:15%- パフォーマンスゴールド(銀・鉱業株など):10%- 商品:10%- ビットコイン:5%この新しい配分は、従来の安全資産(国債など)に対する信頼の喪失という現実を反映しています。特に米国債やドイツ国債といった伝統的な安全資産の信用度が低下する中、金の役割は飛躍的に重要性を増しています。興味深い点は、金を単一の資産クラスではなく、「安全資産としての金」と「パフォーマンスゴールド」に区別する必要があるという指摘です。パフォーマンスゴールドは銀、鉱業株、その他コモディティを含み、今後数年から10年間で通常の金以上のリターンを提供する可能性があります。20年後の2046年に向けては、この多層的なゴールド戦略がポートフォリオの安定性と成長性の両立を実現するでしょう。## 地政学的再編とブレトンウッズIII時代の到来世界の地政学的状況は加速度的に再編されつつあり、これは金にとって極めて好ましい環境を形成しています。経済学者ゾルタン・ポザール氏の論文「ブレトンウッズIII」が示唆するように、世界は現在、金に裏付けられた第1の時代から、ドル信用に基づく第2の時代を経て、外部通貨(金やその他のコモディティ)に裏付けられた第3の時代へ移行しつつあります。この新しい通貨秩序のアンカーとして、金には3つの大きな利点があります。第1に、金は中立的であり、どの国や政党にも属さないため、多極化した世界において統合の要素となり得ます。第2に、金はカウンターパーティリスクがなく、純粋な財産です。第3に、金は高い流動性を持ち、2024年には1日平均取引量が2,290億ドルを超え、時に国債よりも流動性が高いことさえあります。米ドル覇権の相対的な衰退、米国の財政赤字増加、トランプ政権による関税政策や通貨政策の転換などは、いずれも金の戦略的価値を一層高めるでしょう。20年後の2046年には、金が「超国家的な決済資産」としての地位をさらに確立している可能性が高いのです。## ビットコインとの共存:デジタル資産時代における金の位置付け金とビットコインは競合するのではなく、共存・補完する関係にあります。4月末時点で、これまでに採掘された金の市場価値は約23兆ドルに達しており、ビットコインの市場価値は約1.9兆ドルで、金の市場価値の約8%に相当しています。本レポートは、ビットコインが2030年末までに金の時価総額の50%に到達する可能性があると指摘しています。基本シナリオの金価格4,800ドルを仮定すると、この目標を達成するにはビットコイン価格が約90万ドル近くまで上昇する必要があります。これは野心的な目標かもしれませんが、両資産の過去のパフォーマンスを踏まえると、必ずしも非現実的ではありません。重要な洞察は、非インフレ資産分野において金の競合相手の存在が不利ではないということです。むしろ「競争がビジネスを刺激する」というモットーに則り、金とビットコインを組み合わせた投資アプローチが、それぞれ単独での投資以上のリスク調整後リターンをもたらす可能性があるのです。20年後の2046年には、こうした認識がより一層浸透しているでしょう。## 投資戦略:短期変動と長期展望のバランス金市場には短期的な調整圧力が存在することを軽視してはなりません。歴史的に見て、強気相場は20%から40%の調整を経験します。特に銀や鉱業株などは、より大幅な調整を経験することが一般的です。短期的には、以下のリスク要因が金価格に下押し圧力をかける可能性があります。第1に、中央銀行の購入需要が予想外に減少するリスクです。現在、四半期あたり平均250トンの購入が続いていますが、地政学的な状況変化によっては、この需要が減少する可能性があります。第2に、投機的ポジションの急速な削減です。最近の市場動向から、大型の投機筋ポジションがいかに迅速に解放されるかが明示されています。第3に、地政学的プレミアムの低下です。ウクライナ紛争の終結や中東情勢の緩和、特に米中貿易戦争の早期解決は、対応する地政学的プレミアムを大幅に低下させるでしょう。第4に、米ドルの反発です。現在、ドルは短期的に売られすぎており、センチメントは極度にネガティブです。ドルの反発局面では、ドル建ての金価格に下押し圧力がかかります。しかし、これらの短期的な変動は、20年という長期展望の中では一時的な調整に過ぎません。金を含むポートフォリオを構築する投資家は、一貫したリスク管理戦略を維持しつつ、長期的な上昇トレンドを信じることが重要です。## ポートフォリオ保険としての金金の最も重要な役割の1つは、ポートフォリオ保険機能です。1929年から2025年までの16の株式熊市を分析すると、実に15の熊市で金はS&P 500をアウトパフォームしており、平均相対パフォーマンスは+42.55%に達しています。この事実は、市場が大きく変動する局面において、金がいかに有効な防衛資産として機能するかを明示しています。本レポートは金をサッカーにおけるイタリアの守備戦術「カテナチオ」に例えています。投資家ジョルジョ・キエッリーニの守備の信頼性とゴールキーパー、ジャンルイジ・ブッフォンのゴール前での安定感をイメージさせるように、金は他の投資が変動しても、予測可能な回復力でポートフォリオ全体を安定させるのです。20年後の2046年には、この金のポートフォリオ保険機能がより一層認識され、重要性が増しているでしょう。## スタグフレーション環境における高パフォーマンス金の強気相場をサポートする重要な要素は、スタグフレーション環境における優れたパフォーマンスです。本レポートが1970年代のスタグフレーション期を分析した結果、金の平均実質年率複利成長率は7.7%、銀は28.6%、鉱業株は3.4%に達しています。1970年代のスタグフレーション期には、それぞれ32.8%、33.1%、21.2%のパフォーマンスを示しており、金のリスク対比リターンの優位性が明白です。現在の高インフレ、低成長環境がスタグフレーションの初期段階であるとすれば、金価格がこれから大きく上昇する可能性は相当に高いと言えるでしょう。20年後の2046年に向けて、このシナリオが実現する公算は決して小さくありません。## 「影の金価格」が示唆する理論的な金価格水準インクリメンタムが提示する「影の金価格」(シャドーゴールド・プライス)という概念は、ベースマネーサプライが完全に金に裏付けられている場合の理論上の金価格です。この計算方法は、かつてのブレトンウッズ協定の時代に使用されていたアプローチを踏襲しています。現在の市場価格に基づいて計算すると、以下のようなシナリオが想定されます。米国のマネタリーベースM0が完全に金で裏付けられているならば、金価格は21,416ドルに達する必要があります。ユーロ圏のM0が完全に金で裏付けられていた場合、金価格は13,500ユーロ程度になるべきでしょう。米国のM2が完全に金で裏付けられている場合、金価格は82,223ドルに達する必要があります。歴史的には、完全なカバーではなく部分的なカバーが標準でした。1914年の連邦準備制度設立時には、金の最低保有比率が40%と定められ、これを満たすには金価格が8,566ドルまで上昇する必要がありました。1945年から1971年までの期間には25%のカバーが求められ、現在のM0のシャドーゴールド価格は5,354ドルです。特に注目すべきは、国際的な影の金価格の計算です。主要通貨圏(米国、ユーロ圏、英国、スイス、日本、中国)のマネーサプライが、世界のGDPに占める割合に応じて中央銀行の金準備で賄われた場合の金価格は、以下の水準を示唆しています。- M0が25%補償:5,100ドル- M0が40%補償:8,160ドル- M0が100%補償:20,401ドル- M2が25%補償:57,965ドル- M2が40%補償:92,744ドル- M2が100%補償:231,860ドル現在、米国の通貨基盤に占める金の割合はわずか14.5%であり、これはドルの価値の14.5セント分しか金で裏付けられておらず、残りの85.5%は「空気」(信用)であることを意味します。2000年代の金の強気相場では、マネタリーベースに占める金の比率は10.8%から29.7%に上昇しました。同様の比率を達成するには、金価格がほぼ倍増して6,000ドルを超える必要があります。歴史的に見ると、金の比率は1930年代、1940年代、そして1980年代に100%を超えており、1980年の記録的な131%は、現在の金価格に換算すると約30,000ドルに相当するのです。## 2046年への20年展望:金は信頼回復の象徴本レポートの結論は、金の強気相場はまだ終わりではなく、一般投資家の参入段階の真っ只中にあるということです。金は時代遅れの遺物と見なされていた状態から、ポートフォリオの主要資産へと着実に変貌を遂げつつあります。20年後の2046年には、金はさらにいかなる姿を呈しているでしょうか。本レポートは金を資産界の「マイケル・ジョーダン」に例え、安定した守備と強力な攻撃力を兼ね備えた、真のゲームチェンジャーとなる存在だと評価しています。金の長期的な上昇を支える複数の柱があります。第1に、深刻な政治的・経済的混乱の中で、世界的な金融・通貨システムの必然的な再編が進行中です。第2に、政府と中央銀行の構造的なインフレ偏向は継続するでしょう。第3に、特にアジアとアラブ世界における、金に親和性のある地域経済の台頭が加速しています。第4に、米国資産(ドル、米国株、米国債)から長期的な資本流出が続くと予想されます。第5に、銀や鉱業株といった「パフォーマンスゴールド」の期待超過収益が実現する可能性があります。現在の金価格の上昇は単なる危機の反映ではなく、「ゴールデンスワン・モーメント」の最初の前兆となる可能性もあるのです。既存の通貨システムの信頼性がますます低下する中、金が伝統的な価値貯蔵資産としての役割を回復し、おそらく超国家的な決済資産として、政治的権力の道具ではなく、中立的で負債のない、真の信頼と交換の基盤となるでしょう。20年後の2046年に向けて、金価格は8,900ドルを経由点とした、さらなる上昇を遂行する可能性が高いのです。この20年のグラフは、単なる相場チャートではなく、世界経済における信頼と価値の復権を示すチャートとなるでしょう。
2026年から2046年:金価格の20年長期チャートが示唆する8,900ドル到達シナリオ
インクリメンタムが発表した「In Gold We Trust」2025年レポートは、今後20年の金価格展望に関する極めて重要な示唆を提供しています。単なる短期的な相場分析ではなく、2026年から2046年にかけての長期的な金価格グラフを描き出すこのシナリオは、世界的な金融秩序の再編という大きなうねりの中で、金がいかなる役割を果たすのかを明示しています。
現在、金市場は単なる商品相場としての位置付けから脱却し、グローバル経済の不安定性に対する最後の砦として認識され始めています。20年後の金価格がどのような水準に到達するのかは、投資家のポートフォリオ構築にとって極めて重要な判断基準となるでしょう。
周縁から中核へ:金市場の歴史的転換点
かつて金は、利回りの低さと時代遅れの安全資産として軽視されてきました。しかし、金価格の20年チャートを見れば、この認識がいかに矛盾していたかが明白です。
ダウ理論によれば、強気相場は3つの段階で構成されます。蓄積段階、一般投資家の参入段階、そして熱狂段階です。現在、金市場は第2段階である「一般投資家の参入段階」のただ中にあります。この段階の特徴として、メディア報道は一層楽観的になり、投機的な関心と取引量が増加し、新しい金融商品が相次いで発売されています。
過去5年間で、金価格は92%上昇しましたが、これは単なる相場上昇ではなく、構造的な価値再評価を示しています。同期間、米ドルの実質購買力は50%近く低下したのに対し、金の価値は相対的に大幅に上昇したのです。
2020年に発表された「黄金の10年」予測は、現在の金価格動向がインフレシナリオの軌道に沿っていることを示唆しています。そして20年後の2046年に向けて、この上昇トレンドはさらに加速する可能性があります。金が昨年米ドル建てで史上最高値を43回更新し、今年に入っても頻繁に過去最高値を塗り替えているという事実は、金市場における「パラダイムシフト」の到来を象徴しています。
2030年末8,900ドルへの道筋と、その先の20年ビジョン
インクリメンタムのシナリオは、基本シナリオと高インフレシナリオの2つを提示しています。基本シナリオでは2030年末までに金価格が4,800ドル程度に達することが予想されていますが、高インフレシナリオでは8,900ドルに到達する可能性が示唆されています。
この二つのシナリオの存在は、金価格の20年展望においていかなる経済環境下でも上昇余地があることを暗示しています。現在、金価格は2025年末のベースケースにおける中期目標である2,942ドルを既に上回っており、インフレ率の推移次第では、2030年代後半から2046年にかけて、金価格は2つのシナリオの中間値、あるいはそれ以上の水準に到達する公算が高いと考えられます。
短期的には、2025年から2027年にかけて金価格は若干の調整局面を経験する可能性があります。歴史的に見て、強気相場では20%から40%の調整が一般的であり、2,800ドル水準への一時的な下落も想定されるべきでしょう。しかし、この調整は長期的な上昇トレンドを脅かすものではなく、むしろポートフォリオの安定化プロセスの一環として位置付けられるべきです。
中央銀行による金購入:20年の加速トレンド
中央銀行の金準備需要は、過去20年で際立った特徴を示しています。2009年以降、世界の中央銀行は金市場において純買い越しを継続しており、この傾向は2022年2月のロシア外貨準備凍結以降、大幅に加速しています。
ここ3年間、中央銀行による金購入は毎年1,000トンを超えており、まさに「ハットトリック」を達成した状況です。ワールド・ゴールド・カウンシルの調査によれば、2025年2月時点で世界の金準備高は3万6,252トンに達しており、外貨準備に占める金の割合は22%と、1997年以来の最高水準となっています。
特に注目すべきは、アジアの中央銀行がこれら金購入の大部分を担っている点です。2024年の購入国別ランキングではポーランドが最大となりましたが、中国の長期的な金購入戦略は極めて戦略的です。ゴールドマン・サックスの試算によれば、中国は今後、月間約40トンの割合で金を購入し続けると予想されており、これは年間約500トン、つまり過去3年間の中央銀行総需要のほぼ半分に相当します。
この中央銀行による継続的な金購入トレンドは、少なくとも今後10年から20年は持続すると考えられます。各国が国内に金を保管することで、国家的な金融資産の没収リスクを回避しようという動きは、より一層強まるでしょう。
インフレとマネーサプライの構造的圧力
金価格の長期的な上昇を理解するうえで、マネーサプライの膨張は不可欠な要素です。1900年以降、米国の人口は7,600万人から3億4,200万人へと4.5倍に増加しましたが、マネーサプライM2は同期間に90億ドルから21兆ドルへと2,333倍に膨張しました。一人当たりでは実に500倍以上の増加となっています。
この現象をレポートは「ステロイドを投与されたアスリートの筋肉増強」に例えています。見た目は素晴らしいかもしれませんが、構造的には著しく脆弱なのです。G20諸国ではマネーサプライが年平均7.4%増加しており、3年間のマイナス成長を経て、再び増加傾向に転じています。
今後20年を見通すと、各国政府と中央銀行は引き続きインフレ偏向の政策スタンスを維持する公算が高いです。景気後退と資本市場の暴落はデフレをもたらす一時的な効果がありますが、これに対する政府の対応は必然的にインフレ的性格を帯びます。イールドカーブ・コントロール、量的緩和、金融抑圧、追加財政刺激、さらにはMMTなどの非伝統的手段の活用は、今後20年で一層加速するでしょう。このマネーサプライの膨張は、金価格を構造的に押し上げる最大の要因として機能し続けるはずです。
新しい60/40ポートフォリオ:20年後を見据えた資産配分
従来の株式60%、債券40%という標準的なポートフォリオ構成は、現在の市場環境では最適ではなくなっています。インクリメンタムが提案する新しい60/40ポートフォリオは、以下のような資産配分を示唆しています。
この新しい配分は、従来の安全資産(国債など)に対する信頼の喪失という現実を反映しています。特に米国債やドイツ国債といった伝統的な安全資産の信用度が低下する中、金の役割は飛躍的に重要性を増しています。
興味深い点は、金を単一の資産クラスではなく、「安全資産としての金」と「パフォーマンスゴールド」に区別する必要があるという指摘です。パフォーマンスゴールドは銀、鉱業株、その他コモディティを含み、今後数年から10年間で通常の金以上のリターンを提供する可能性があります。20年後の2046年に向けては、この多層的なゴールド戦略がポートフォリオの安定性と成長性の両立を実現するでしょう。
地政学的再編とブレトンウッズIII時代の到来
世界の地政学的状況は加速度的に再編されつつあり、これは金にとって極めて好ましい環境を形成しています。経済学者ゾルタン・ポザール氏の論文「ブレトンウッズIII」が示唆するように、世界は現在、金に裏付けられた第1の時代から、ドル信用に基づく第2の時代を経て、外部通貨(金やその他のコモディティ)に裏付けられた第3の時代へ移行しつつあります。
この新しい通貨秩序のアンカーとして、金には3つの大きな利点があります。第1に、金は中立的であり、どの国や政党にも属さないため、多極化した世界において統合の要素となり得ます。第2に、金はカウンターパーティリスクがなく、純粋な財産です。第3に、金は高い流動性を持ち、2024年には1日平均取引量が2,290億ドルを超え、時に国債よりも流動性が高いことさえあります。
米ドル覇権の相対的な衰退、米国の財政赤字増加、トランプ政権による関税政策や通貨政策の転換などは、いずれも金の戦略的価値を一層高めるでしょう。20年後の2046年には、金が「超国家的な決済資産」としての地位をさらに確立している可能性が高いのです。
ビットコインとの共存:デジタル資産時代における金の位置付け
金とビットコインは競合するのではなく、共存・補完する関係にあります。4月末時点で、これまでに採掘された金の市場価値は約23兆ドルに達しており、ビットコインの市場価値は約1.9兆ドルで、金の市場価値の約8%に相当しています。
本レポートは、ビットコインが2030年末までに金の時価総額の50%に到達する可能性があると指摘しています。基本シナリオの金価格4,800ドルを仮定すると、この目標を達成するにはビットコイン価格が約90万ドル近くまで上昇する必要があります。これは野心的な目標かもしれませんが、両資産の過去のパフォーマンスを踏まえると、必ずしも非現実的ではありません。
重要な洞察は、非インフレ資産分野において金の競合相手の存在が不利ではないということです。むしろ「競争がビジネスを刺激する」というモットーに則り、金とビットコインを組み合わせた投資アプローチが、それぞれ単独での投資以上のリスク調整後リターンをもたらす可能性があるのです。20年後の2046年には、こうした認識がより一層浸透しているでしょう。
投資戦略:短期変動と長期展望のバランス
金市場には短期的な調整圧力が存在することを軽視してはなりません。歴史的に見て、強気相場は20%から40%の調整を経験します。特に銀や鉱業株などは、より大幅な調整を経験することが一般的です。
短期的には、以下のリスク要因が金価格に下押し圧力をかける可能性があります。
第1に、中央銀行の購入需要が予想外に減少するリスクです。現在、四半期あたり平均250トンの購入が続いていますが、地政学的な状況変化によっては、この需要が減少する可能性があります。
第2に、投機的ポジションの急速な削減です。最近の市場動向から、大型の投機筋ポジションがいかに迅速に解放されるかが明示されています。
第3に、地政学的プレミアムの低下です。ウクライナ紛争の終結や中東情勢の緩和、特に米中貿易戦争の早期解決は、対応する地政学的プレミアムを大幅に低下させるでしょう。
第4に、米ドルの反発です。現在、ドルは短期的に売られすぎており、センチメントは極度にネガティブです。ドルの反発局面では、ドル建ての金価格に下押し圧力がかかります。
しかし、これらの短期的な変動は、20年という長期展望の中では一時的な調整に過ぎません。金を含むポートフォリオを構築する投資家は、一貫したリスク管理戦略を維持しつつ、長期的な上昇トレンドを信じることが重要です。
ポートフォリオ保険としての金
金の最も重要な役割の1つは、ポートフォリオ保険機能です。1929年から2025年までの16の株式熊市を分析すると、実に15の熊市で金はS&P 500をアウトパフォームしており、平均相対パフォーマンスは+42.55%に達しています。
この事実は、市場が大きく変動する局面において、金がいかに有効な防衛資産として機能するかを明示しています。本レポートは金をサッカーにおけるイタリアの守備戦術「カテナチオ」に例えています。投資家ジョルジョ・キエッリーニの守備の信頼性とゴールキーパー、ジャンルイジ・ブッフォンのゴール前での安定感をイメージさせるように、金は他の投資が変動しても、予測可能な回復力でポートフォリオ全体を安定させるのです。
20年後の2046年には、この金のポートフォリオ保険機能がより一層認識され、重要性が増しているでしょう。
スタグフレーション環境における高パフォーマンス
金の強気相場をサポートする重要な要素は、スタグフレーション環境における優れたパフォーマンスです。本レポートが1970年代のスタグフレーション期を分析した結果、金の平均実質年率複利成長率は7.7%、銀は28.6%、鉱業株は3.4%に達しています。1970年代のスタグフレーション期には、それぞれ32.8%、33.1%、21.2%のパフォーマンスを示しており、金のリスク対比リターンの優位性が明白です。
現在の高インフレ、低成長環境がスタグフレーションの初期段階であるとすれば、金価格がこれから大きく上昇する可能性は相当に高いと言えるでしょう。20年後の2046年に向けて、このシナリオが実現する公算は決して小さくありません。
「影の金価格」が示唆する理論的な金価格水準
インクリメンタムが提示する「影の金価格」(シャドーゴールド・プライス)という概念は、ベースマネーサプライが完全に金に裏付けられている場合の理論上の金価格です。この計算方法は、かつてのブレトンウッズ協定の時代に使用されていたアプローチを踏襲しています。
現在の市場価格に基づいて計算すると、以下のようなシナリオが想定されます。
米国のマネタリーベースM0が完全に金で裏付けられているならば、金価格は21,416ドルに達する必要があります。ユーロ圏のM0が完全に金で裏付けられていた場合、金価格は13,500ユーロ程度になるべきでしょう。米国のM2が完全に金で裏付けられている場合、金価格は82,223ドルに達する必要があります。
歴史的には、完全なカバーではなく部分的なカバーが標準でした。1914年の連邦準備制度設立時には、金の最低保有比率が40%と定められ、これを満たすには金価格が8,566ドルまで上昇する必要がありました。1945年から1971年までの期間には25%のカバーが求められ、現在のM0のシャドーゴールド価格は5,354ドルです。
特に注目すべきは、国際的な影の金価格の計算です。主要通貨圏(米国、ユーロ圏、英国、スイス、日本、中国)のマネーサプライが、世界のGDPに占める割合に応じて中央銀行の金準備で賄われた場合の金価格は、以下の水準を示唆しています。
現在、米国の通貨基盤に占める金の割合はわずか14.5%であり、これはドルの価値の14.5セント分しか金で裏付けられておらず、残りの85.5%は「空気」(信用)であることを意味します。
2000年代の金の強気相場では、マネタリーベースに占める金の比率は10.8%から29.7%に上昇しました。同様の比率を達成するには、金価格がほぼ倍増して6,000ドルを超える必要があります。歴史的に見ると、金の比率は1930年代、1940年代、そして1980年代に100%を超えており、1980年の記録的な131%は、現在の金価格に換算すると約30,000ドルに相当するのです。
2046年への20年展望:金は信頼回復の象徴
本レポートの結論は、金の強気相場はまだ終わりではなく、一般投資家の参入段階の真っ只中にあるということです。金は時代遅れの遺物と見なされていた状態から、ポートフォリオの主要資産へと着実に変貌を遂げつつあります。
20年後の2046年には、金はさらにいかなる姿を呈しているでしょうか。本レポートは金を資産界の「マイケル・ジョーダン」に例え、安定した守備と強力な攻撃力を兼ね備えた、真のゲームチェンジャーとなる存在だと評価しています。
金の長期的な上昇を支える複数の柱があります。第1に、深刻な政治的・経済的混乱の中で、世界的な金融・通貨システムの必然的な再編が進行中です。第2に、政府と中央銀行の構造的なインフレ偏向は継続するでしょう。第3に、特にアジアとアラブ世界における、金に親和性のある地域経済の台頭が加速しています。第4に、米国資産(ドル、米国株、米国債)から長期的な資本流出が続くと予想されます。第5に、銀や鉱業株といった「パフォーマンスゴールド」の期待超過収益が実現する可能性があります。
現在の金価格の上昇は単なる危機の反映ではなく、「ゴールデンスワン・モーメント」の最初の前兆となる可能性もあるのです。既存の通貨システムの信頼性がますます低下する中、金が伝統的な価値貯蔵資産としての役割を回復し、おそらく超国家的な決済資産として、政治的権力の道具ではなく、中立的で負債のない、真の信頼と交換の基盤となるでしょう。
20年後の2046年に向けて、金価格は8,900ドルを経由点とした、さらなる上昇を遂行する可能性が高いのです。この20年のグラフは、単なる相場チャートではなく、世界経済における信頼と価値の復権を示すチャートとなるでしょう。